2つの港が生んだ スルメ


天日干しの田後港             ひん中干しの網代港

 

スルメといえば決して高級品ではなく、料理の主役になることはまれですが、どこか親しみがあって“ほっ”とする、酒のつまみには最適です。世のなかにはいろいろなスルメがあってイカの種類も食べ方も様々ですが、岩美の2つの港で干したスルメはちょっと違います。
うす塩と港の潮のにおいがして肉厚で、しかもやわらかい。今までのスルメの概念が一挙に変わる、なんとも贅沢なスルメを紹介します。

スルメを潮風で乾かし、「ひん中干し」するのが網代港

ある天気の良い日の午後、網代(あじろ)のあばさんたちは、今朝市場に上がったスルメイカを、張ったロープに手際よく掛けていきます。イカの耳を立てて落ちないように、最初に腹を干し、次に背中を干し、最後に耳を干します。なんたって、今朝市場に上がったものを潮風で「ひん中干し」をして、夕方には農村部のお得意さんの所へ。みんなが待っているそうで、「網代のスルメや干し魚を食ったら、他のが食えんだがあ」と言うそうです。

 

すだれに並べ、天日で干し上げる田後港

田後のお母ちゃんたちは、天気の良い日、夜明け前の3時や4時に起きて港に出てすだれを広げ、イカを1枚1枚丁寧に干します。これが田後流。日の出の頃には、浜は所狭しとすだれに干されたイカでいっぱいになります。
時々、雨が降ると、すばやくすだれと一緒に巷き上げ避難。雨にちょっとでも当たらないように気を配ります。雲りでお陽さんがなくなったときも同様。本当にすだれ干しは重宝するそうです。

網代港と違って土地の少ない港のため、すだれを持ってどこへでも移動できる、これこそ長年培ったお母ちゃんの知恵なのです。